東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)116号 判決
一 請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
二 成立に争いのない甲第一号証(本件考案の実用新案公報)によれば、本件考案は、流体接続具のプラグに係り、「ソケツト本体とプラグの密封を確実にすることを目的とする」ものであることが認められる。
(審決取消事由1について)
成立に争いのない甲第四号証によれば、丙引用例の環状弁32は、軸心に近い側に軸方向に延びる唇状部38があつて、この唇状部38に円錐状内表面40と円錐状外表面42が形成され、軸心から遠い側に放射状方向の部分36が設けられた形状となつており、放射状方向の部分36の内側に環状つば44が接合され、圧縮ばね46により外側方向への押圧力が与えられ、この環状弁32の円錐状内表面40に弁座頭部24の円錐表面26と円筒表面28の交わる部分が線接触しているものであることが認められる。右事実によれば、丙引用例のものにおいては、環状弁32は環状つば44と圧縮ばね46とによつて浮動的に支持されてはいるが、弁座頭部24あるいは密封表面82の軸心と環状弁32の軸心が軸方向に対して直角な方向にずれた場合に、環状弁32が弁座頭部24あるいは密封表面82に追従してその位置を軸方向に対して直角な方向に自動的に移動して軸心を合わせ両者の接触状態を良好に保つようにしたものであり、ここには軸心の折れ曲りに対する考慮は全く払われていないというべきである。なぜなら、円筒状密封表面82に対して、環状弁32の円錐状外表面42を接触させるものであるから、両者の軸方向が折れ曲つた場合には、それぞれの円筒状表面と円錐状表面との接触が不完全となつて、もはや完全密封を期待することはできないからである。このことは、円錐体の中心軸に直交する切断面は円形であつても、中心軸に斜交する切断面は円形ではないことから明らかである。
しかして、丙引用例のものにおいては、環状弁32の放射状方向部分の外周縁部に金属環を嵌めるものではないから、本件発明にいう「ベロー状パツキンのフランジ外周に嵌着した金属環」の構成を欠くものであり、その構成に対応する作用効果(後述の審決取消事由2の項参照)を期待しうべくもないものといわなければならない。
そうであれば、丙引用例のものは、プラグとソケツト本体の軸心の折れ曲りに対する考慮が全く払われていないものであるのに、審決が、丙引用例について、軸心が折れ曲つた場合を前提とし、その場合に環状弁の変形を防止できる作用効果を奏するとしたのは、密封という目的に照らすと、結局において、その技術内容の認定を誤つたものというべきである。
(審決取消事由2について)
前掲甲第一号証によれば、本件考案においては、プラグとソケツトの軸心が折れ曲つても弁部分での漏れが発生しないように、ベロー状パツキン口縁部のフランジ面に設けた断面半円状の突出帯状リング14に圧接すべきプラグ前面を円錐状でなく球帯面15としており、しかも、軸心の折れ曲りが大きくてプラグの端面である垂直面13がベロー状パツキン口縁部のフランジ外周に片当りすることがあつても、この垂直面13をフランジ外周に嵌着してある金属環5で受けるようにしてあるから、ベロー状パツキン3は必要以上に変形せず、したがつて、突出帯状リング14も必要以上の変形をしないから、密封を不完全にする恐れがないことが認められる。すなわち、本件考案における金属環5は、フランジ外周を覆つてプラグの垂直面13に対向する位置まで延びており、それによつて、「ベロー状パツキンの口端の伸縮によるソケツト内での滑りが円滑に行くようにしてある」(本件考案の実用新案公報第二欄一行目ないし三行目)、「プラグとソケツト軸心の折れ曲り……に対しては、ベロー状パツキンとプラグ前面の球帯面とが圧接しているので密封が確実である」(同第三欄一八行目ないし二一行目)、「ソケツトとプラグの軸心が折れ曲つても金属環が垂直面に当り、突出帯状リングが必要以上に変形するのを防止できる」(同第四欄三行目ないし六行目)という作用効果を奏するものである。
そうであれば、本件考案は、プラグとソケツトの軸心の折れ曲りに対しては、プラグの前面が球帯面であることにより密封が確実にできることとあいまつて、金属環が垂直面に当り、突出帯状リングの必要以上の変形を防止することにより、密封を不完全にする恐れをなくしているものであるといえる。したがつて、審決が、本件考案について、フランジ外周面に嵌着した金属環とこれに小間隙をおいて対向すべき垂直面を設けた構成による効果を認めていないのは、誤りというべきである。
三 本件審決には、本件考案と引用例の構成及び作用効果の認定、対比について、右のとおり、判断の誤りがある以上、その余の審決取消事由について判断するまでもなく、本件実用新案をもつて実用新案法第三条第二項の規定に違反して登録されたものであり、同法第三七条第一項第一号の規定に該当するとした審決は、結局、その判断を誤つた違法のものである。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本件考案の要旨は左のとおりである。
プラグ前面に、ベロー状パツキン口縁部のフランジ面に設けた断面半円状の突出帯状リングに圧接すべき球帯面と、前記ベロー状パツキンのフランジ外周に嵌着した金属環に小間隙をおいて対向すべき垂直面を設けるとともに、ソケツト本体内面に嵌合すべき円筒外面を設け、この円筒外面で前記垂直面近傍にボールが係合する溝を周設して成る流体接続具のプラグ。